組織と神経から見た慢性痛のメカニズム
痛みが3ヶ月以上続く慢性痛は、痛みの原因となった組織(筋肉、関節、ファシア)が治った後も、脳と神経のシステムが過敏になることで発生します。
① 神経可塑性と中枢性感作
急性期の強い痛みや持続的な刺激によって、脊髄や脳の神経回路が痛みの電気信号を通しやすくなります。これを中枢性感作と呼びます。この状態になると、触られただけの軽い刺激(アロディニア)や通常なら小さな痛みであるはずの刺激を脳が激痛として誤認してしまいます。
出典:中枢性感作と慢性痛のメカニズム: Woolf, C. J. (2011). Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain
② ファシア(筋膜)の滑走不全と機械的ストレス
骨格のアライメントが崩れたり、同じ姿勢を続けたりすると、筋肉を包むファシアが脱水して癒着を起こします。ファシアには痛みを感知するセンサー(自由神経終末)が豊富に存在するため、滑走が悪くなった部位が引っ張られるだけで、持続的な痛みの引き金になります。
③ 脳脊髄液(CSF)の滞りと自律神経の緊張
脳と脊髄は、脳脊髄液という液体に満たされています。SOT(仙骨後頭骨テクニック)やCST(頭蓋仙骨療法)の視点では、頭蓋骨と仙骨の連動が乱れると、この液体の循環を滞らせます。脳脊髄液の滞りは、中枢神経の老廃物排出を遅らせ、交感神経を過剰に緊張させます。交感神経の優位(血管縮小・血流障害)は、筋肉を虚血(酸欠)状態にし、痛みの発生物質(ブラジキニンなど)をさらに停滞させる悪循環を作ります。
出典:グリンパティックシステム(脳脊髄液と老廃物排出):Nedergaard, M. (2013). Garbage Truck of the Brain. Science
細胞レベルの慢性炎症とエネルギー不足で痛みを感じやすくなる
痛みのコントロールには、細胞内の化学環境(栄養状態)が直接影響します。
① マグネシウム不足による痛みのゲート開放
神経が痛みの信号を脳に送る際、NMDA受容体というスイッチが関わります。健康な状態では、このスイッチにマグネシウムがパテのように詰まっており、過剰な興奮を防いでいます(NMDA受容体のマグネシウムブロック)。しかし、ストレスや食生活の乱れでマグネシウムが不足すると、ブロックが外れてスイッチが開きっぱなしになり、わずかな刺激で神経が過剰興奮して痛みを増幅させます。
出典:NMDA受容体とマグネシウムの関係:Kirkland, A. E., et al. (2018). The Role of Magnesium in Neurological Disorders. Nutrients
② ミトコンドリアのATP不足と筋肉の不完全弛緩
筋肉は縮む(収縮)ときだけでなく、緩む(弛緩)ときも、細胞内のエネルギー(ATP)が必要です。ミトコンドリアの機能低下でATPが不足すると、筋肉は緩むことができず、硬く縮んだまま(拘縮状態)になります。これにより局所の血管が圧迫され、虚血と酸欠が起こり、痛みが慢性化します。ATP合成には、ビタミンB群、鉄、コエンザイムQ10などの栄養素が不可欠です。

③ HPA軸機能障害(副腎疲労)と抗炎症作用の低下
慢性的な痛みや精神的ストレスが続くと、視床下部-下垂体-副腎(HPA軸)の連携が乱れ、副腎から分泌される抗炎症ホルモン(コルチゾール)の分泌リズムが崩れます。体内の炎症を自前のホルモンで抑えられなくなるため、痛みの感受性がさらに高まります。
慢性痛に対する当院のアプローチ
慢性痛は局所の組織的な原因も強いので、そこをほぐしたり、鍼を刺しても緩和します。しかし、その後も痛みを繰り返したり、取り切れない場合は、これまで解説してきた慢性痛のメカニズムにアプローチすることも必要です。
当院は慢性痛に対しても、単に揉みほぐして痛みを散らすというだけではなく、SOT・CSTによる脳脊髄液の循環と、分子栄養学による細胞レベルでのアプローチを行っていきます。
⚠️ 医療機関への受診が必要な場合
慢性痛の背景に重大な病気が隠れているケースがあります。以下の症状がある場合は、整体や栄養療法を試す前に、必ず病院を受診してください。
- 楽な姿勢をとっても、夜間寝ていても痛みが全く変わらない(夜間痛・安静時痛)
- 明らかな原因がないのに、数ヶ月で体重が急激に減少した
- 発熱や寝汗を伴う痛み
- 手足の筋力が著しく低下している、または排尿・排便の障害がある
整体と医学的メカニズム
